東京地方裁判所 平成8年(ワ)7025号 判決 1999年1月29日
アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウォルサム、ヒッコリー・ドライブ二一
原告
サミット・テクノロジー・インコーポレーテッド
右代表者
ピーター・リットマン
オランダ国一〇七一デーイェー・アムステルダム、ミューセウムプレイン一一
原告
サミット・テクノロジー・アイルランド・ビー・ウィー
右代表者
デイビッド・エフ・ミューラー
原告ら訴訟代理人弁護士
近藤恵嗣
愛知県蒲郡市栄町七番九号
被告
株式会社ニデック
右代表者代表取締役
小澤秀雄
右訴訟代理人弁護士
松本直樹
同
赤堀文信
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、別紙物件目録記載の外科的装置を製造し、販売してはならない。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 原告らは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を共有する。
特許番号 第二一二五三一三号
発明の名称 目の角膜の曲率を修正するための外科的装置
出願年月日 昭和六一年一月三〇日
出願公告年月日 平成七年一二月二五日
登録年月日 平成九年一月一三日
特許請求の範囲 放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片(2、16)形式のゾーンを切除することによる目の角膜(1)の曲率を少なくとも部分的に修正するための外科的な装置であって、角膜物質の光分解を許容するために、その波長が〇・二μm近傍のビームを放出することのできる光源(31)と、除去されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる光学装置(12)とを備えた目の角膜の曲率を修正するための外科的装置において、角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段(8、13、15、20、21、23)を含み、前記レンズ状の薄片の厚みが大きい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに長く露光され、逆に前記レンズ状の薄片の厚みが小さい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに短く露光されることを特徴とする目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
(右番号は、別添特許公報記載の図面の番号を指す。)
2 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下、本件発明の構成要件は、「構成要件A」のように記号により記載する。)。
A 放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片形式のゾーンを切除することによる目の角膜の曲率を少なくとも部分的に修正するための外科的な装置であって、
B 角膜物質の光分解を許容するために、その波長が〇・二μm近傍のビームを放出することのできる光源と、
C 除去されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる光学装置とを備えた目の角膜の曲率を修正するための外科的装置において、
D 角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段を含み、
E 前記レンズ状の薄片の厚みが大きい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに長く露光され、逆に前記レンズ状の薄片の厚みが小さい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに短く露光されることを特徴とする目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
3 被告は、業として、別紙物件目録記載の外科的装置(以下「被告装置」という。)を製造している。
4 被告装置は、構成要件A、Bを充足する。
二 本件は、原告らが、被告に対し、被告装置の製造販売が、「原告らの共有する本件特許権を侵害するものであるとして、本件特許権に基づき、被告装置の製造販売の差止めを求めている事案である。
三 争点
1 被告装置は、構成要件Cを充足するか。
2 被告装置は、構成要件Dを充足するか。
3 被告装置は、構成要件Eを充足するか。
4 原告らは、信義則上特許権を行使することができないか。
四 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告らの主張
被告装置は、リニアスキヤンミラー(2)、投影レンズ(7)及びイメージローテーター(4)によりビームを指向させ、角膜上に光スポットを形成させる光学系を有するから、被告装置は構成要件Cを充足する。
(二) 被告の主張
原告らの主張を争う。
2 争点2について
(一) 原告らの主張
(1) 被告装置の作動は、近視の治療を例にとると、次のとおりである。
被告装置においては、パルス状に発光する長方形断面のレーザービームが使用されているが、途中に絞りが存在し、眼球上に絞りの像が結像されるから、一パルスによって眼球上に形成される光スポットの形状は、長方形を絞りの像で切り取った形になり、絞りの形状が円形の場合は、光スポットの形状は、別紙説明図面記載の説明図1(以下、別紙説明図面記載の説明図は、「説明図1」のように番号により記載する。)のとおりとなる。
眼球上における、長方形を絞りの像で切り取った形の光スポットがリニアスキャンミラーの作動により一端から他端まで一行程移動すると(これは、スキャンの一行程ということができる。)、その間に、光スポットは、重ね合わされ又は継ぎ合わされて、継ぎ合わせ領域は、説明図2のようになる。
次に、絞りが開かれると、長方形を切り取る絞りの像が大きくなるため、これに従って、説明図3に示すとおり、眼球上における光スポットも、大きくなる。
絞りが開かれた状態で、光スポットが一端から他端まで一行程移動すると、光スポットによる継ぎ合わせ領域は、説明図4のようになる。
説明図2の行程の後に説明図4の行程が行われることにより、説明図2の領域は、二行程にわたって露光され、説明図4の領域と説明図2の領域の差の部分は、一行程だけ露光される。これにより、説明図2の領域、すなわち眼球の中央部の角膜がより多く切除され、近視の治療になる。
(2)<1> 「進行」とは、時間と共に前に進み、後戻りしないことを意味するから、構成要件Dの「進行的」変化とは、「時間の経過と共に、順次、一定の方向に変化し、後戻りしない変化」を意味する。
<2> 被告装置の作動の経過は右(1)のとおりであり、このうち、説明図1と説明図3を比較すると、光スポットの面積は、行きつ戻りつすることなく一定の方向に変化している。したがって、説明図1から説明図3への光スポットの面積の変化は、構成要件Dの「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させる」という要件を充足する。
(3)<1> 本件発明においては、光スポットの面積の変化がなければゾーンのすべての走査ができないという意味で、光スポットの面積が変化することが必要であるが、面積の変化のみによってゾーンのすべてを走査することは必要ではなく、ゾーンのすべてを走査するために面積の変化以外の構成が存在することを排除していない。
本件公報の特許請求の範囲の請求項3は、「前部光スポットが複数個の相異なる連続的な場所を占有するようにさせるための走査手段(23、30)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第1項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置」であり、場所の変化によって切除されるべきゾーンを走査する装置であるが、請求項3は、訂正によって削除されず、存置されているから、構成要件Dは、請求項3に記載されたような、場所の変化により切除されるべきゾーンを走査することも含む。
<2> 被告装置は、リニアスキャンミラー(2)をリニアスキャンミラー駆動装置(3)で駆動し、絞り(5)を絞り駆動装置(6)で駆動することにより、角膜上の光スポットの面積及び位置を順次変化させ、角膜上の切除されるべきゾーン全体にビームを照射するものであり、右面積の変化は、右(2)のとおり進行的変化ということができるから、被告装置は、構成要件Dの「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段を含み」という要件を充足する。
(二) 被告の主張
(1) 被告装置の作動は、近視の治療を例にとると、次のとおりである。
被告装置のスキャンの一行程は、ビームが、説明図6ないし説明図10の長方形の「1」から「10」まで移動することにより行われ、ビームにより長方形「4」に光スポットが形成されたときは、説明図6のような光スポットが形成され、その後、説明図7、説明図8、説明図9のような光スポットが形成されていく。
スキャンの一行程が終わると、絞りが一段階開き、光スポットの外周の曲線を形成する円は、説明図6の円Aから円Bになる。それと共に、イメージローテーターにより、光スポットが説明図10のように回転する。そして、再び、左端から右端までビームが移動し、長方形「1」から「10」まで光スポットが形成される。
(2)<1> 構成要件Dの「進行的に変化させる」の「進行的」とは、本件公報の発明の詳細な説明を参酌すると、レンズ又は絞りを角膜に対して動かすこと(本件公報第3図、第4図で示されている実施例のようなもの)を意味し、そうでなくとも、「進行的に変化させる」とは、徐々に連続的に変化させることを意味する。
<2> 被告装置において、レンズ又は絞りを角膜に対して動かすことはない。
<3> 原告らが進行的変化であると主張する説明図1から説明図3への変化をみても、被告装置は、説明図1の照射の後、光スポットを端までスキャンしていって、その後に説明図3の照射をするから、説明図1と説明図3は、時間的に連続しておらず、徐々に連続的に変化するということはない。また、被告装置の絞りの大きさは、説明図1の状態から説明図3の状態のように、不連続に飛び飛びに変化するので、この点からしても、徐々に連続的に変化するということはない。
(3) 構成要件Dは、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段を含み」というものであるから、面積の変化によってゾーンの全てを走査することは必須であって、光スポットは、その最大時には切除されるべきゾーンのすべてを覆わなければならない。ところが、被告装置においては、絞りが最も開いている状態でも、矩形の光スポットが照射されるだけであり、その光スポットの面積は、切除されるべきゾーンの一〇分の一程度に過ぎず、そのすべてを覆うことはないから、被告装置は、面積の変化によってゾーンの全てを走査しておらず、構成要件Dを充足しない。
3 争点3について
(一) 原告らの主張
被告装置においては、角膜から切除されるレンズ状の薄片形式のゾーンの厚みの分析データをデータ入力装置(9)から入力し、このデータによってリニアスキャンミラー駆動装置(3)及び絞り駆動装置(6)が制御され、その結果、角膜において、切除される厚みの大きい部分はビームに長時間さらされ、切除される厚みの小さい部分はビームに短時間さらされるから、被告装置は構成要件Eを充足する。
(二) 被告の主張
原告らの主張を争う。
4 争点4について
(一) 被告の主張
原告らは、特許庁の審査手続における意見書、無効審判手続における訂正請求書において、「進行的」変化につき、レンズ若しくは絞りの前後動又は連続的な変化を意味すると理解される内容の主張をし、本訴において、当初は一方的な変化とは理解することができない内容の主張をしていたが、途中で、一方的な変化を意味するとの主張を始めた。このように、原告らの主張は、特許庁の審査手続、審判手続、本訴において変遷し、矛盾している。
特許請求の範囲の解釈について審査過程における主張と異なる主張を侵害訴訟においてすることは信義則上許されないが、更に、原告ら主張のように特許庁の審査手続、審判手続、侵害訴訟において主張が変遷し、矛盾している場合は、信義則により、原告らの特許権の行使自体が禁じられるべきである。
(二) 原告らの主張
被告の主張を争う。
第三 当裁判所の判断
一 争点2について判断する。
1 甲第一号証、第四号証、第五号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨によると、構成要件Dは、本件特許権の登録時には、「角膜上の前記光スポットの領域を進行的、に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段を含み」とされていたこと、被告は、平成九年二月二一日、本件特許権につき無効審判を請求したこと、原告らは、同年一〇月二三日、右審判手続の中で、構成要件Dの「光スポットの領域」という文言を「光スポットの面積」に訂正し、発明の詳細な説明中の「領域」という文言を「面積」と訂正することなどを内容とする訂正請求を行ったこと、平成一〇年三月四日付けで、特許庁は、右訂正を認め、無効審判請求は成り立たないとする審決をしたこと、以上の各事実が認められる。
2 甲第二号証及び第三号証の各一、二及び弁論の全趣旨によると、被告装置の作動は、近視の治療を例にとると、次のとおりであることが認められる。
(一) 被告装置においては、パルス状に発光する長方形断面のレーザービームが使用されているが、途中に絞りが存在し、眼球上に絞りの像が結像されるから、一パルスによって眼球上に形成される光スポットの形状は、長方形を絞りの像で切り取った形になり、絞りの形状が円形の場合は、光スポットの形状は、説明図6ないし説明図10のようになる。
(二) スキャンの一行程は、ビームが、説明図6ないし説明図10の長方形の「1」から「10」まで移動することにより行われ、ビームにより長方形「4」に光スポットが形成されたときは、説明図6のような光スポットが形成され、その後、説明図7、説明図8、説明図9のような光スポットが形成されていく。
(三) スキヤンの一行程が終わると、絞りが一段階開き、光スポットの外周の曲線を形成する円は、説明図6の円Aから円Bになる。それと共に、イメージローテーターにより、光スポットが説明図10のように回転する。そして、再び、左端から右端までビームが移動し、長方形「1」から「10」まで光スポットが形成される。
(四) このようにして、説明図6の円Aの部分は二行程にわたって露光され、円Aと円Bの間の部分は、一行程だけ露光され、これにより、円Aの部分すなわち眼球の中央部の角膜がより多く切除され、近視の治療になる。
3 本件公報の発明の詳細な説明には、構成要件Dの「面積を進行的に変化させる」という文言に関連して、面積を「前進的に変化させ」る(本件公報六欄四二行、七欄六行ないし七行、二六行、三九行)と記載されているが、「進行的」という文言の意味を特に説明し又は限定する記載はない。
したがって、「進行的」とは、その文言のとおり、時間の経過と共に、順次、一定の方向に変化することを意味し、変化を「連続的」に限定する必要はなく、「段階的」な変化も含むものと解され、まして、レンズ又は絞りを角膜に対して動かすことに限定する理由はない。
4(一) ところで、「面積」とは、平面の広さを意味し、位置又は場所とは別個の概念であって、「面積の変化」という場合、それは、広さが変わることを意味する。これに対し、「領域」は、面積の他、位置又は場所を含み得る概念であり、「領域の変化」は、位置又は場所の変化を含み得るということができる。しかるところ、原告らは、前記1認定のとおり、構成要件Dにつき、「領域」という文言を「面積」という文言に訂正したものである。
また、構成要件Dの「除去されるべき前記ゾーンの全て」は、本件発明の構成要件Aに照らすと、目の角膜において、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体を指すものと解される。
そして、構成要件Dは、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段を含み」というものであるから、構成要件Dは、光スポットの面積すなわち平面の広さを進行的に変化させることにより、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体を走査することを意味するものと解され、光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、文言上、構成要件Dを充足するということはできない。
(二) 原告らは、前記1認定の訂正に係る訂正請求書(乙第四号証)において、「本件発明は・・・除去されるべき角膜上に光スポットを形成させ、この角膜上の光スポットによる照射中光スポットの面積を進行的に増加または減少させることによって角膜のレンズ状の薄片ゾーンの一部について上記光スポットの面積にわたりゾーンの厚み方向に削除していくものであり、このために除去されるべきゾーンの全てにわたり事実上、上記光スポットの面積を漸進的に増減変化させながらゾーンの全体的な面積を走査する走査手段を具備してなるものである」(訂正請求書六ページ一五行ないし二二行)、「本件特許発明については、角膜上に形成される光スポットはその面積を変動しながら走査され、このような面積の連続的に可変な光スポットで角膜を走査することにより角膜上の所定のゾーンを切除するものであることが明記されており、場所、位置、寸法あるいは形状を上位に観念させる『領域』をより一層具体的にかつ明細書の記載に裏付けられて『面積』に訂正するものであり」(訂正請求書八ページ一一行ないし一六行)と主張し、また本件公報七欄四一行ないし四二行の「領域の変化は増大または減少からもたらされるものであり」という記載を「面積の変化は角膜上の光スポット寸法の増大または減少からもたらされるものであり」と訂正するよう請求し、そのとおり訂正された。
このように、原告らは、訂正請求において、本件発明が、光スポットの面積の進行的変化のみによって、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されをゾーン全体を走査するものである旨の主張を行い、その請求どおりの訂正が認められたのであり、本件発明が、右ゾーン全体を走査するために面積の進行的変化以外のものが必要であるとの主張はしていなかったものである。
(三) したがって、構成要件Dは、光スポットの面積すなわち平面の広さを進行的に変化させることにより、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体を走査することを意味するのであって、光スポットの面積を進行的に変化させることのみでは、右ゾーン全体を走査することができないものは、構成要件Dに含まれないというべきである。
(四) 原告らは、特許請求の範囲の請求項3が訂正によって削除されず存置されているから、構成要件Dは、場所の変化により切除されるべきゾージを走査する装置も含むと主張する。
しかし、請求項3は、実施態様項(昭和六二年法律第二七号による改正前の特許法三六条四項)であり、必須要件項に記載された発明の構成の具体化を示すものであって、必須要件項に記載された構成要件が訂正され、発明の技術的範囲が限定された場合、その訂正に伴って削除されなくても、訂正後の発明の構成との関係では、その具体化とはいえなくなり、実施態様でなくなることもあり得るものである。本件においては、前記1認定のとおり訂正がされ、本件発明の技術的範囲は、面積の進行的変化によって除去されるべきゾーンのすべてを走査するものに限定されたところ、請求項3は、場所の変化によって除去されるべきゾーンを走査するものであるから、訂正後、請求項3は、本件発明の技術的範囲に含まれなくなり、本件発明の実施態様ではなくなったものである。そして、本件公報中において請求項3に対応する第2のモード(七欄四五行ないし八欄一三行)並びに第10図、第12図及びその説明箇所(一二欄二三行ないし三七行)も、訂正後は、本件発明の実施態様又は実施例ではなくなったものである。しだがって、請求項3が存置されているからといって、構成要件Dが、場所の変化により切除されるべきゾーンを走査することを含むと解することはできない。
5 そこで、被告装置が、構成要件Dを充足するかどうかについて検討する。
被告装置は、前記2(一)ないし(四)のとおり作動するものであり、スキャンの一行程中における説明図6から説明図9への過程においては、光スポットの面積が変化したということができ、また、スキャンの一行程における説明図6と次の行程における説明図10を比較すると、光スポットの面積が変化して大きくなったということができる。
右の面積の変化のうち説明図6から説明図9への過程における変化は、面積が大きくなった後小さくなっており、一定の方向に変化していないことは明らかであるから、進行的変化ではない。弁論の全趣旨によると、説明図6から説明図10への変化は、説明図6の前の行程や説明図10の後の行程を想定し、これらを含めて考えた場合、広がる方向にしか変化しないものと認められるから、進行的変化ということができる。イメージローテーターによる回転(前記2(三))は、この認定を左右するものではない。
しかし、被告装置において、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体は、右の光スポットの面積の進行的変化及び光スポットの位置が長方形「1」から「10」まで順次変わることによって走査されるのであって、右の光スポットの面積の進行的変化のみによって、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるゾーン全体が走査されるものではない。
その他、被告装置において、光スポットの面積を進行的に変化させることにより、放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片が除去されるジーン全体を走査するものというべき事実を認めることはできない。
したがって、被告装置は構成要件Dを充足しない。
二 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)
物件目録
左記の構成要素を有し、添付第一図記載のごとく構成された角膜用外科的装置
記
1 アルゴン・フッ素混合形式のエクシマ・レーザ発生器
2 リニアスキャンミラー
3 リニアスキャンミラー駆動装置(図示せず)
4 イメージローテーター
5 絞り
6 絞り駆動装置(図示せず)
7 投影レンズ
8 制御装置(図示せず)
9 テータ入力装置(図示せず)
(各構成要素の説明)
1 アルゴン・フッ素混合形式のエクシマ・レーザ発生器(1)
レーザー発生器(1)は、約三〇ミリ秒の間隔でパルス状に発光して波長〇・一九三μの紫外線を発生する。発生する紫外線ビームは、ビーム断面が細長い長方形であり、添付第二図において影をもって示されるような強度分布を有する。このビームは、後述の絞りがなければ、同図記載のような光スポットを眼球上に形成する。
2 リニアスキャンミラー(2)及び同駆動装置(3)
リニアスキャンミラー(2)は、同駆動装置(3)によって添付第一図の矢印方向に駆動され、眼球上で前記長方形の光スポットの形成される位置を順次ずらす。これにより、後述の絞りがなければ、約〇・三秒で、添付第三図に示されているように、前記長方形の光スポットの複数によって眼球上に略正方形の領域が形成される。
3 イメージローテーター(4)
イメージローテーター(4)は、眼球のほぼ中央を中心として、前記長方形の光スポットの形成される位置を回転させる。
4 絞り(5)及び同駆動装置(6)
絞り(5)は、近視及び乱視の治療に用いられ、前記紫外線ビームの一部を遮断することにより、眼球上に現実に形成される光スポットの形状及び大きさを、前記長方形の一部分に限定する。絞り(5)は、同駆動装置(6)によって駆動されるが、前記リニアスキャンミラー(2)の動きによって長方形の光スポットが一端から他端に移動する少なくとも一行程の間は同一に保持され、一行程終了毎に、または、複数行程終了毎に、その半径及び/又は形状を変える。その結果、前記リニアスキャンミラー(2)の一行程または複数行程の間に現実に紫外線が照射される眼球上の領域は、各瞬間に照射されるスポットがスキャンされていったところを重ね合わせたまたは継ぎ合わせた領域となるが、この「継き合わせた領域」は、前記の略正方形ではなく、絞りの形に対応した形になる。近視の治療の場合には、これは、半径が順次異なる円になり、乱視の治療の場合には、円の一部を順次切り取った形になる。
5 投影レンズ(7)
投影レンズ(7)は、眼球上に絞りの像を結像させる位置関係に置かれる。
6 制御装置(8)
制御装置(8)は、リニアスキャンミラー(2)、イメージローテーター(4)及び絞り(5)等の動きを制御して、相互に同期して動くようにする。
7 テータ入力装置(9)
テータ入力装置(9)は、角膜の切除量等についてのテータを入力するために用いられる。このテータに従って、制御装置(8)は絞り駆動装置(5)を制御する。
以上
第一図
<省略>
第二図
<省略>
第三図
<省略>
説明図面
<省略>
(19)日本国特許庁(JP) (12)特許公報(B2) (11)特許出願公告番号
特公平7-121267
(24)(44)公告日 平成7年(1995)12月25日
(51)Int.Cl.6A 61 F 9/007 識別記号 庁内整理番号 F1 A 61 F 9/00 511 512 技術表示箇所
発明の数1
(21)出願番号 特願昭61-500810
(86)(22)出願日 昭和61年(1986)1月30日
(65)公表番号 特表昭62-502026
(43)公表日 昭和62年(1987)8月13日
(86)国際出願番号 PCT/FR86/00026
(87)国際公開番号 WO86/04500
(87)国際公開日 昭和61年(1986)8月14日
(31)優先権主張番号 8501614
(32)優先日 1985年2月4日
(33)優先権主張国 フランス(FR)
(72)発明者 アルネオドー、ジヤツク
フランス国、06000 ニース、アヴニユー・ブラウン・セカール 7
(72)発明者 ボテイノー、ジヤン
フランス国、06100 ニース、アヴニユー・シヤトーブリアン 5
(72)発明者 クロザフカン、フイリツフ
フランス国、06000 ニース、ブロムナド・デ・ザングレ 55
(71)出願人 999999999
サミット・テクノロジー・インコーポレイテッド
アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム、ヒッコリー・ドライブ 21
(71)出願人 999999999
サミット・テクノロジー・アイルランド・ベスローテン・フェンノートシャッブ
オランダ国、1071 デーイェー・アムステルダム、ミューセウムブレイン 11
(72)発明者 アゼマ、アラン
フランス国、06000 ニース、アヴニユー・デ・ザレーヌ 28
(74)代理人弁理士 曾我道照 (外6名)
審査官 鈴木寛治
(72)発明者 ムーラン、ジニラール
フランス国、06000 ニース、アヴニユー・マレシヤル・リオーテイ 167
(56)参考文献特開昭60-119935(JP.A)
米国特許3769963(US.A)
米国特許4461294(US.A)
欧州特許出願公開111060(EP.A)
(54)【発明の名称】 目の角膜の曲率を修正するための外科的装置
【特許請求の範囲]
【請求項1】放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片(2.16)形式のゾーンを切除することによる目の角膜(1)の曲率を少なくとも部分的に修正するための外科的な装置であって、
角膜物質の光分解を許容するために、その波長が0.2μm近傍のビームを放出することのできる光源(31)と、除去されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる光学装置(12)と
を備えた目の角膜の曲率を修正するための外科的装置において、
角膜上の前記光スポットの領域を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段(8.13、15、20、21、23)を含み、
前記レンズ状の薄片の厚みが大きい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに長く露光され、逆に前記レンズ状の薄片の厚みが小さい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに短く露光されることを特徴とする目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項2】前記光学装置(12)は目の光軸上に定常的に集中された光スポットを角膜上に形成していることを特徴とする請求の範囲第1項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項3】前記光スポットが複数個の相異なる連続的な場所を占有するようにさせるための走査手段(23、30)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第1項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項4】前記光スポットは円形状のものであることを特徴とする請求の範囲第2項または第3項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項5】前記光スポットは環状のものであることを特徴とする請求の範囲第2項または第3項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項6】前記光スポットは実質的に方形状のものであることを特徴とする請求の範囲第2項または第3項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項7】前記光スポットの相異なる連続的な場所(28.1ないし28.n)は、除去されるべきゾーンの全てを併置することによってカバーすることを特徴とする請求の範囲第3項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項8】前記光スポットは除去されるべきゾーンの全幅をカバーし、前記走査手段はこの光スポットをそれ自体には平行で、この幅とは直交する方向に変位させることを特徴とする請求の範囲第3項または第6項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項9】前記走査手段は、少なくとも1個の前記スクリーンまたはダイアフラム(13、15、20、21、23)、および、前記光学装置(12)と少なくとも1個の前記スクリーンまたはダイアフラムとの間で相対的な変位を生じさせるための変位手段(8.30)を含み、この相対的な変位の速度は除去されるべき前記薄片(2.16)の厚みの変化に対応していることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項10】前記変位手段(8)は前記ビーム(4)に平行する方向に相対的な変位を生じさせることを特徴とする請求の範囲第9項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項11】前記変位手段は前記ビーム(4)を横切る方向に相対的な変位を生じさせることを特徴とする請求の範囲第9項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項12】前記光学装置(12)および前記スクリーン(13、15、20、21、23)は光学台(6)上に搭載されていることを特徴とする請求の範囲第9項ないし第11項のいずれか1項に記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項13】固定ダイアフラム(13)および前記ダイアフラムから発する平行なビームを受け入れる可動光学装置(12)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第10項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項14】第1の固定ダイアフラム(13)、前記第1のダイアフラムから発する平行なビームを受け入れる同様な固定光学装置(12)、および、前記光学装置に関して第1のものと反対側に配置された第2の可動ダイアフラム(15)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第10項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項15】第1の固定ダイアフラム(13)、前記ダイアフラムから発する平行なビームを受け入れる可動光学装置(12)、および、前記光学装置と共に迅速に変位し、それを通過するビーム(4)の中心部をおおいかくすスクリーン(20)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第10項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項16】固定ダイアフラム(13)、前記ダイアフラムから発する平行なビームを受け入れる同様な固定光学装置(12)、および、前記光学装置を通過するビーム(4)の中心部をおおいかくす可動スクリーン(21)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第10項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項17】固定ダイアフラム(13)、同様な固定光学装置(12)、および、スロット(24)が貫通された可動スクリーン(23)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第10項または第11項に記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項18】前記可動スクリーン(23)はビーム(4)を横切って移動するものであり、前記可動スクリーン(23)の平面内で前記スロット(24)の方位を調整するための手段(30)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第17項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項19】前記光源(31)および前記走査手段(8、13、15、20、21、23)を、除去されるべき前記薄片(2、16)に対する厚みの所望の変化の関数として制御する電子計算機(34)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第18項のいずれか1項に記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項20】除去される角膜の部分の曲率の進展に対して連経的に追従し、その計測値を前記電子計算機(34)に伝えることのできる角膜計(37)を更に含んでいることを特徴とする請求の範囲第17項記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【請求項21】前記角膜(1)に関して前記ビーム(4)を整列させるために適合されている補助的なレーザ発生器(38)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第20項のいずれか1項に記載の目の角膜の曲率を修正するための外科的装置。
【発明の詳細な説明】
この発明は、目の角膜の曲率を修正するための外科的装置に関するものであり、このような角膜は、生体によって保持されているものか、または、前以て生体から取り出されたものである。
近視、遠視、乱視のような所定の不具合は、角膜の曲率を修正することによって治療できることが知られている。更に、無水晶体症のような別異の不貝合は、前記曲率を訂正することにより、少なくとも部分的に治療できるものである。このことから、角膜の曲率を修正するための方法は、すでに考えられている。
このような方法としては、実質的に、次の2個のタイブのものがある。即ち、
-第1の方法では、機械的な切除機器の助けによって角膜から平凸レンズ体を取り出し、このレンズ体を冷凍して硬化させ、この硬化されたレンズ体を旋盤によって機械加工して、様々な厚みをもつ凸面状の形態のソーンを該レンズ体から除去するようにされる。機械加工ののちに、機械加工されたレンズ体は加温され、次いで、その初めの位置に戻される。このような方法は時間が長くかかり、費用が多く、患者に外傷が残るものである。更に、この方法は、近視や遠視のような目の光軸の周囲の分解能の不具合だけを治療することができるものであって、分解能について対称性のない乱視の治療は不可能である。
-第2の方法では、メスまたはレーザ・ビームによって、角膜内で光軸の外側に、放射状のスロットを形成させる処置がとられる。これらのスロットのために、角膜の切除された部分は平らにされ、結果的に、全体的な曲率の修正がなされる。第1のタイブの方法に比ベて外傷が残ることは少ないけれども、この第2のタイブの方法では、角膜に対する必要な乱切のために、粗暴性が残ってしまう。更に、この後者の可能性には、限界がある。更に、1983年9月21日付けの“エクシマ・レーザによる角膜の外科的治療(Excimer laser surgery of the cornea)”なる論文であって、雑誌“米国眼科学ジャーナル(AMERICAN JOURNAL OF OPHTHALMOLOGY)”1983年12月号であるVol.96.No.6の第710-715ベージに記載されているものにおいて、エクシマ・レーザを使用して角膜物質を光分解によって除去することが、Stephen L.TROKE L. R. SRINIVASAN、および、BODIL BRARENによって説明されている。この論文においては、その波長が0.193μmに等しい紫外放射線を使用することが推奨されており、また、角膜の曲率を修正するために、前記放射線の助けによる円形の“しみ(stain)”が前記角膜上に形成されるが、“その強度が中心から周辺に向けて変化し、その結果として、より多くの物質が、光分散の関数として中心部または周辺部のいずれかにおいて除去される”旨が詳述されている。角膜の曲率は、このようにして除去されるものである。
この後者の方法は特別に有利なものであるけれども、所望の角膜の曲率に従って光強度を変化させるための手段を必要とすることから、実施をすることは困難である。このような手段を技術的に実施することは、不可能ではないにしても、困難であるものと考えられる。
この発明の目的は、これらの既知の方法における欠点を克服することにある。この発明は、近視、無水晶体症および乱視のような様々な不具合を治療するために、外傷が残らず、迅速で、しかも容易な態様で角膜の曲率を修正するための外科的な装置に関するものである。
これらの目的のために、この発明によれば、該外科的な装置は、放射状に厚みが変化する両凸状の薄片の形態のブーンを目の角膜から切除することにより、該目の角膜の曲率を少なくとも部分的に修正するためのものであって、角膜物質の光分解を許容するために0.2μ近傍の波長を有するビームを放出することのできる光源を含んでおり、同様にして、前記ビームを除去されるべき前記角膜のゾーン上に指向させ、前記ゾーンの部分上に光りスポットを形成させる光学装置が含まれているものである。ここで注目されるべきことは、これには前記光スポットによる走査手段が含まれていて、角膜上の光スポットの領域を進行的に変化させることにより、除去されるべきゾーンの全てが走査され、前記ゾーンの部分は対応する前記両凸状の厚みが大きければ大きいほど前記ビームに対して長く露光され、逆に前記レンズ状の薄片の厚みが小さい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに短く露光されることである。
このやり方においては、光化学的なプロセスによる乱切をすることなく、特に患者に対する外傷を残すことなく角膜物質の切除がなされるものであり、レーザ・ビームの放射方向の強度を変化させることのできる手段を設計しなくてもよいものである。
実際、この発明によれば、除去されるべき大きな厚みに対応する角膜の部分は、除去されるべき小さい厚みに対応する同一角膜の部分に比ベて、光ビームに対してより多く露光されるようにされていることから、角膜に対する差動的な光化学的切除がなされて、その曲率を修正することができるが、その理由は、厚い部分の方が薄い部分よりも多くの光エネルギを受け入れるからである。
なお、この差動的な光化学的切除の進行の程度は、前記光スポットにより除去されるべきゾーンの全てを走査することの進行の程度に依存するものである。
走査の最大の進行の程度を達成させるため、従って、角膜の曲率の修正の正確さの最大の進行の程度を達成させるため、この発明によれば、実質的に、2個の走査モードが提供される。
1-第1のモードによれば、光スポットは目の光軸上に定常的に集中されており、この発明による装置には、角膜上のこのスポットの領域を前進的に変化させるための走査手段が含まれている。このモードは全ての治療に対して実際に適用されるものである。実際には:
a)近視の治療-角膜の曲率を減少させることによって修正することができる-においては、その周辺部に比べてその中心部(目の光軸の近傍)の方が厚くされているレンズ状の薄片の切除をすることが必要とされる。そのため、この場合には、角膜によって受け入れられた光エネルギの密度は、中心部から周辺部に向けて減少し、または、周辺部から中心部に向けて増大しなければならない。
この目的のために、この発明による装置における光学装置は円形の光スポットを角膜上に形成させ、また、前記走査手段は、前記スポットの領域を、小さい中心のスポットから除去されるべきゾーンの全体的な領域へと前進的に変化させ、または、その逆の変化をさせる。前記スポットの領域が拡大するように変化したとき、即ち、中心部から周辺部に向けて変化したときには、中心部から移行するにつれて光ビームに対する露光時間が減少する。これに対して、除去されるべきゾーンの走査が周辺部から中心部に向けてなされたときには、中心部に向けて移行するにつれて光ビームに対する露光時間が増大する。言うまでもなく、いずれの場合においても、露光時間の変化は、所望の曲率の変化を妨害しないように調整される。
b)遠視および無水晶体の治療-角膜の曲率を増大することによって修正することができる-においては、その中心部(光軸の近傍)に比べて周辺部の方が厚い簿片の切除をすることが必要とされる。そのため、この場合には、角膜によって受け入れられる光エネルギの密度は、中心部から周辺部に向けて増大するか、または、周辺部から中心部に向けて減少しなければならない。
この目的のために、この発明による装置における光学装置は環状の光スポットを角膜上に形成し、また、前記走査手段は前記スポットの領域を前進的に変化させて、少なくともその内径を変化させるようにする。言うまでもなく、環状のスポットの領域におけるこのような変化は、外形についての所望の修正がなされるように調整される。これは、拡大および縮小の双方において有効なものである。
c)乱視(2個の相異なる平面内の角膜の相異なる曲率半径による)の治療においては、光軸を通る特定の子午線上の平面に沿った曲率の修正をすることが必要とされる。かくして、この場合には、この発明による装置における光学装置は、その大きい直線状の側面部が前記特定の子午線に対して直交している細長くされた光スポットを角膜上に形成し、また、前記走査手段は前記スポットの領域を前進的に変化させて、少なくとも、その小さい側面部の長さを変化させる。
領域の変化は増大または減少からもたらされるものであり、この時点から、このような変化は(時間の関数として)曲率の所望の修正を角膜に対して伝えるようにされる。
2-この発明の装置による曲率を修正する第2のモードによれば、これには、前記スポットが複数個の連続的な場所を占めるようにするための走査手段が含まれ、前記スポットは、この場合には、例えば長方形のような、直線のセグメントによって規定される簡単な幾何学的形状を呈しており、これらの場所の一つにおけるスポットの保持時間は、その場所において除去されるべき角膜物質の厚みに依存している。
この場合、除去されるべき全体的なゾーンは、前記スポットの特別に簡単な幾何学的形状のために、その併置によって容易にカバーされる。
従って、この発明によって曲率を修正する第2のモードは、乱視の修正のためには特に好適なものであって、当該目的のために前述された第1のモードを変形したものである。また、前記スポットが除去されるべきゾーンの幅の全てをカバーしているとき、および、この幅に直交する方向において、前記走査手段が前記スポットをそれ自体に並列にしているときには、併置の処理を容易にするためには有利なものである。
この発明の装置における曲率を修正するモードがどれであっても、言うまでもなく、時間の関数として走査手段を機能させることは、所望の修正された曲率にすることのできる法則に従うものである。
この発明による外科的装置の好適な実施例において、前記走査手段に含まれているものは、少なくとも1個のスクリーンまたはダイアフラム、および、前記光学装置と少なくとも1個の前記スクリーンまたはダイアフラムとの間の相対変位をさせるための変位手段であり、この相対変位の速度は、除去されるべき前記薄片の厚みの放射方向の変化に対応している。場合によっては、この相対変位の方向は、前記ビームに平行していたり、横切っていたりする。
前記光学装置および前記スクリーンおよび/またはダイアフラムは、光学台上に好適に搭載されている。
かくして、近視を治療するためには、この発明による装置には:
-固定ダイアフラムと、前記ダイアフラムから発するビームを受け入れる可動の光学装置:または、
-第1の固定ダイアフラム、前記第1のダイアフラムから発するビームを受け入れる同様な固定光学装置、および、前記光学装置に関して該第1のものと反対側に配置された第2の可動ダイアフラム:
のいずれかが含まれている。
同様にして、遠視および無水晶体症を治療するためには、この発明による装置には:
-固定ダイアフラム、前記ダイアフラムから発するビームを受け入れる可動光学装置およびスクリーンであって、このスクリーンは前記光学装置と共に迅速に変位し、それを通過するビームの中心部分をおおいかくすもの:
-固定ダイアフラム、前記ダイアフラムから発するビームを受け入れる同様な固定光学装置および可動スクリーンであって、前記光学装置をさせる通過するビームの中心部分をおおいかくすもの:
のいずれかが含まれている。
乱視を治療するためには、この発明による装置には、固定ダイアフラム、同様な固定光学装置およびスロットの貫通した可動スクリーンが含まれている。このスロットは前記スクリーンの変位方向を横切るようにされており、前記スクリーンはそれ自体に対して平行にされるか、自己平面内にあるように配置されれことができる。この場合には、この装置に有利に含まれているものは、前記可動スクリーンの平面内の前記スロットの方位を調整するための手段である。
自動的な外科的装置を得るためには、除去されるべき前記薄片に対する厚みの所望の放射方向の変化の関数として、前記光源および前記走査手段を制御するための電子計算機を設けるころが有利である。この場合、該装置に更に含まれているものは、角膜の曲率の修正に従うこと、および、その計測値を前記計算機に伝えることのできる角膜計である。前記角膜に対する切除用のビームを容易に整列させるために、例えばヘリウム・ネオン型のような、補助的なレーザ発生器も設けられている。
添付されている図面は、この発明がどのようにして実施されるかを明らかに示すものである。これらの図面において、同一の参照記号は同様な要素を指示するものである。
第1図および第2図は、近視の治療の場合に機能するこの発明の装置による原理の概略的な例示図であって、それぞれに、軸方向および正面方向の図である。
第3図および第4図は、近視の治療が意図されているときの、この発明による装置の部分についての2個の実施例を示す図である。
第5図および第6図は、遠視および無水晶体症の場合に機能するこの発明の装置による原理の概略的な例示図であって、それぞれに、軸方向および正面方向の図である。
第7図および第8図は、遠視および無水晶体症の治療が意図されているときの、この発明による装置の部分についての2個の実施例を示す図である。
第9図は、乱視の治療が意図されているときの、この発明による装置の部分についての実施例の概略図である。
第10図は、乱視の治療が意図されているときの、この発明による装置の部分についての別異の変形された実施例の概略図である。
第11図および第12図は、それぞれに、第9図および第10図の実施例の機能の果たし方の概略図である。
第13図は、この発明による装置の全体的なブロック図である。
第1図および第2図には、近視の治療の場合の、この発明による装置が機能する原理が例示されている。
これらの図面には、それぞれに、近視眼の角膜1が、軸方向および正面方向で概略的に示されている。
既知の態様においては、このような欠陥は、円形レンズの形状の簿片2を除去することにより、前記曲率を減少させるようにして外科的に修正できるものであることが知られている。
このレンズ状の薄片2は、目の光軸X-X上に集中しており、その中心部において最大の厚みemを呈している。この厚みは、軸X-Xに対する放射状の距離の関数として、その周辺部3に向けて減少している。
前記薄片2の厚みeの進行性の程度は、放射状の距離Rの変化の関数として、曲率の所望の修正によって規定される。
この発明によれば、前記所望の放射状の関数として所望される厚みの変化の法則性e(R)を呈する薄片2の切除をするために、円形の区分を有する光ビーム4が用いられるが、その波長は高々0.2μmの程度であり、その方向を横切って一定のエネルギ密度を示している。光ビーム4は角膜1上に向けられて、光軸X-X上で集中されている。
第3図および第4図に関連して説明されるように、角膜1上の前記ビームによって形成されるスポットの半径rは、時間tの関数として、所望の法則e(R)を満たすことができるようにして変化される。即ち、前記スポットの半径の各値0、・・、r1、・・、r2、・・、rmに対して、角膜の除去の深さが得られるが、これらは前記薄片2の厚みem、・・、e1、・・、e2、・・、0に対応している。
言うまでもなく、時間tの関数としての半径rの変動r(t)は、半径rの最大値rmから0に向けてなされるか、または、0から最大値rmに向けてなされる。かくして、この発明によれば、所望の法則e(R)を得るために、円形の光スポットを角膜1上に形成し、このスポットの半径を時間の関数として変化させることにより、薄片2の所望の切除が達成される。
近視の治療のために適当である。このような可変直径の光スポットを得るためには、第3図および第4図に概略的に示されているような手段が用いられる。
第3図に示されている手段5には光学台6が含まれており、この光学台6は駆動手段8の動作の下にキャリッジ7に沿って双方向(矢印F)に移動することができる。駆動手段8には、例えば電動モータ9が含まれており、これは、前記キャリッジ7に接続されたナット11として協同して、ウオームねじ10を回転的に駆動するものである。
キャリッジ7は、レンズ12の形式で示されている光学装置を支持しているが、このレンズ12は、光ビーム4を発生させて、角膜1上に光スポットを形成させることができるものである。キャリッジ7のために、レンズ12の位置を変化させることにより前記角膜上の前記スポットの半径が変化され、手段8の動作による台6に沿ったキャリッジ7の変化速度をモニタすることは、変動r(t)の法則、従って、法則e(R)をモニタすることによって可能にされる。
固定ダイアフラム13は、円形の区分を有する均質で平行な光ビーム27をレンズ12に向けて伝えることができるものであり、ここからビーム4が発せられる。
第4図に示されている変形の実施例においては、レンズ12は台6上に永久的に搭載されている。一方、付加的な円形のダイアフラム15設けられて、キャリッジ7上に搭載されている。手段8を付勢することにより、ダイアフラム15は台6に沿って変位し、その結果としてビーム4によって角膜1上に形成されるスポットの寸法が変化される。
ここで第5図および第6図を参照して、遠視および無水晶体症のために、この発明の装置が機能する原理について説明される。この場合、このような欠点は、その端部に比べて中心部における厚みが少ない凹凸レンズの形式の薄片16を外科的に除去することにより、角膜の曲率を局部的に増大させるようにして修正することができる。簿片16は目の光軸X-X上に集中されていて、その厚みは周辺部17に向けて増大されている。
第1図および第2図を参照して説明されたことと同様にして、放射状の方向Rに平行して前記薄片16の厚みの変化の注則を守るために、光ビーム4の助けによって角膜1上に環状のスポットを形成して、時間の関数として前記スポットの内径を変化させることにより、薄片16の切除を行うことができる。
この場合には、近視の治療に対して述べられたこととは反対に、ビームに対する露光時間は、その1個が光軸X-Xから離れるまで持続しなければならない。第5図および第6図に例示されているブロセスを実施するためには、第7図または第8図における手段18および19のいずれかが使用される。
レンズ12の中心部が円形の中心スクリーン20によっておおいかくされていることを除き、手段18は第3図の手段5と同様なものである。このために、駆動手段8がレンズ12を台6に沿って変位させると、前記角膜1の中心部上で前記スクリーン20によって形成された陰の寸法の変化がもたらせることになる。
(手段8の制御により)台6に沿う組み立て体12、20の変位速度を調整することにより、ビーム4に対する角膜1の露光時間は、所望の外形の簿片16の切除を行うために、放射状の距離の関数として調整される。
キャリッジ7上に搭載されているダイアフラム15に関することを除いて第4図の手段14と同様な手段19を使用することにより、同様なけっかが得られる。このダイアフラム15は、ビーム4の中心部をおおいかくす円形のスクリーン21によって置換される。そして、キャリッジ7の変位により、角膜1の中心部上に前記スクリーン21によって形成された陰の領域の変動が生じる。
第9図には、乱視を修正するための、この発明による手段22が、透視図的に、部分的かつ概略的に示されている。円形のダイアフラム15が直線状のスロット24が通されたスクリーン23によって置換されていることを除き、この手段22は第4図の手段14と同様なものである。この直線状のスロット24は、ある所定の方向25と直交している。
かくして、第11図に示されているように、伸長された光スポット26が角膜上に形成されており、この光スポットの多くの側面部は直線状をなして、前記所定の方向25と直交している。そして、この方向は、曲率の修正がなされるべき目の子午線の輪郭に対応している。横方向においては、スポット26は、ダイアフラム13によって規定される円形の線41の対応する部分によって限定されている。
(手段8ないし11-第9図には示されていない-の動作の下に)台6に沿うキャリッジ7およびスクリーン23の変位の間に、角膜1上のスポット26の面積は前記変位の方向の関数として増大および/または減少し、所望の修正に対応する簿片の切除をすることが可能になる。
第3、4、7、8および9図に関して示され、説明されている手段5、14、18、19および22は、光スポットの面積の変動によって角膜1を走査するものである。しかしながら、このような走査は、走査と平行する寸注が一定にされているスポットを走査することによっても行なわれる。
例えば、第10図には、この発明による手段の変形が示されている。この場合、スクリーン23は制御可能な手段上に搭載されていて、この平面内で変位できるようにされている。この場合、除去されるべき角膜1のゾーンを走査することは、第12図に示されているように、複数個の連続的な場所28・1、・・・、28・nに、前記角膜上のスロット24によって形成された光スポット28を与えることによって行なわれる。言うまでもなく、その場所28・1ないし28・nの各々におけるスポット28の保持時間は、対応する堤所の部位において除去されるべき角膜物質の厚みに依存するものである。
第10図の手段29においては、スクリーン23は、その平面内で移動するだけではなく、その支持体30の関節手段31のために、スロット24の方向が調整可能なように方位が定められることが注意されるべきである。
第13図には、この発明による自動装置が示されているこの装置に含まれているものは:
-その波長が高々0.2μmである均質の光ビーム27を放出するすることのできる光源31であって、例えば、アルゴン・フッ棄混合形式のエクシマ・レーザ発生器:
-ダイアフラム13の通過後に角膜1に向けて前記光ビームを指向させる装置32であって、これを走査するための手段を含んでいるもの:装置32は、前述された手段5.14、18、19、22、29のいずれか、または、同様な手段でよい:
-前記装置を機能させるブロセスの制御、特に手段32(特に起動手段8)の制御をするようにされる電子計算機34:
-半透明のミラー36と関連され、ビーム4のパルスのエネルギに関する情報を計算機34に供給するようにされた光検知器35:
-角膜1の曲率を実時間で計測し、その計測値を計算機34に伝送するための自動角膜計:
-角膜1上でビーム4の正確な位置決めを許容する、例えばヘリウム・ネオン形式の整列レーザ:
-源31を制御するための手段39であって、それ自体は計算機34によって制御されるもの:および
-手術をしている間は外科医による角膜1の観察が可能にされるスロット付きのランブ:
である。
計算機34は、角膜1から除去されるべき簿片に対する所望の厚みの変動の法則性の関数として手段32を制御するようにブコグラムされており、また、角膜計37および光検知器35によって供給される情報を考えに入れて、対応するシーケンスの動作が実行される。必要な場合には、手段39には自動的な緊急時の局所的な手段が含まれている。
【第1図】
<省略>
【第2図】
<省略>
【第3図】
<省略>
【第4図】
<省略>
【第5図】
<省略>
【第6図】
<省略>
【第7図】
<省略>
【第8図】
<省略>
【第11図】
<省略>
【第9図】
<省略>
【第12図】
<省略>
【第10図】
<省略>
【第13図】
<省略>
特許公報
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>